言葉

日常のひと休みに

付喪神56

祈る。人以外の生き物で祈るものはいるだろうか。 願いと祈りはとても近いようにおもう。祈りや願いによって生まれたものも多いだろう。 僕は祈りや願いのことを考えると、あの時のことをおもいだす。あの大地が波打つような現象を…。 あの時、多くの人が願…

付喪神⑤⑤

うん。なかなか良い話だった。って、おい!主君、主君よ、終わりか、終わりなのか、ありえないだろう、こんな終わり方。 確かに、オイラの話は書いたかもしれない。でも、それは、それでは主君の話にはならない。ただオイラの話だけ書けばよかったのだ、ここ…

付喪神⑤④

とはいえ、それほど大袈裟なことではない。ある意味では人が言葉を他者を相手に使った時に、人はその覚悟を自然にしているのだ。日常生活の中で。 ただ表現者はそれを意識的に再認識しなければならないというだけの話だ。 そうおもい、僕は君の物語を書き始…

付喪神⑤③

人は言葉をもって考えるということができ、進化したのかもしれない。 言葉というのはとてつもなく凄い道具だ。それは同時に扱うのに注意が必要な道具でもある。言葉によるイメージは文化や人によって、それぞれ異なるからだ。同じ言葉にすべて同じイメージを…

付喪神⑤②

人はそういうことで、相手との接し方や距離感などが変わるのではないかとオイラはおもう。オイラは人ではないからわからないけど、人を見ているとそんなふうにおもえてならない。 その情報を多く共有している人であるなら、言葉は少なくてもお互いにわかりあ…

付喪神⑤①

主君がオイラの話を書き始めた。 時々おもう、主君にオイラの声が聞こえているんじゃないかと。もちろんそんなことは絶対にない。 言葉というのはとてつもない情報のメモリーだとオイラはおもう。 主君の中の言葉の情報とオイラの中の言葉の情報が一致するこ…

付喪神㊿

さあ、ここから君の生まれた知らない国の知らない土地へおもいをはせてみる。想像という中の君の国、君の世界、君の時間、現実の中にある君から生まれてくる様々なものたちは、とても素敵なものたちだ。 世界はひろがる。それは線ではなく、もっと別のなにか…

付喪神㊾

僕は君と出会って、様々な人に出会って、そう気づかされた。 僕には表現したいことや伝えたいことがあるみたいだ。そして求めているものがあるみたいだ。そのことで誰かの役に立てたならと思っているみたいだ。そうすることで、自分が救われるような気がする…

付喪神㊽

こうしている間も世界は動いているんだ。そしてその世界の中で僕も動いている。それは誰もが同じことだ。 世界の流れはとてもはやい、気づけば景色が変わっている、そんなはやさだ。そのはやさに合わせる必要があるのだろうか…。 運動会でかけっこのはやい人…

付喪神㊼

それからずっと目を向けられないでいた彼女に目を向けると、彼女を失ってしまったのかと…。 今にしておもえば、あの時すでに何が始まって…いや、変わっていたのかもしれない。 現実の時間の中ではもう会えないかもしれない彼女、そのことが本当の意味での失…

付喪神㊻

僕は弱いから進めなくて進むのが怖くて、外の時間を無視して、自分の中の時を止めたんだ。 僕は自分の中に逃げたのかもしれない。それが悪いことだとはおもわないけど、僕がそれを望んだわけではない。 僕は彼女に好きとしか言っていない。好きと言えない人…

付喪神㊺

僕は何が書きたいのだろう。君と出会って、書きたいとおもって、彼女のことを思い出して…。 彼女と初めて手をつないだのは、寒い日ではなかった。なぜだろう、ふと手をつなぎ歩きたくなったのだ。手をつないで歩いたあの橋を忘れられないでいる。 きっと多く…

付喪神㊹

時間は一方向にしか流れていないのに、何故か人の中には別の時間も存在しているような気がしてならない。 自分の中にあるものは自分の年齢とは関係なくその日のままそこにあり、自分をその日にかえす。 時間は流れているのに自分の中の時は逆行できるのかも…

付喪神㊸

主君は書くということで己の中の自分に会っているのかもしれない。そこは感情や理性が渦巻いているめちゃくちゃな世界で、それを知りわかったからといって、どうにもならない世界で、それはどうにもならない自然の猛威とおなじで、つまり自分の中の自然と向…

付喪神㊷

おもえば、主君はずっとそうだった。 今の世の中は、外の世界の繫がりを求め、その繋がりによってお金を手に入れる時代だ。 ただ外へ外へとひろがって行き、それが金銭に繋がる時代に、主君はお金にならない内へ内へと深く潜り、琴線に繋がる、触れるために…

付喪神㊶

人を好きになることは、素敵なことかもしれない。だけど、そのおもいだけで自分を満たしてしまうと、そこに誰もいなくなってしまうのだ。もちろん、誰かを好きなのだから対象の誰かはいるのだろう、だけど、その誰かは本当の誰かではない。その誰かは、自分…

付喪神㊵

彼女はセンスのある人だった。センスというのを言葉にするのは難しい。彼女の描くもの、言葉…、彼女から生まれてくる様々なものが、そう感じさせた。 彼女はセンスのない僕と、どうして一緒にいてくれたのかはわからない。 僕はきっと彼女からたくさんのもの…

付喪神㊴

おい、主君、主君よ、オイラの話を書くんじゃなかったのか!?あんたの恋の話なんて誰も興味がないぞ。しかもすべて断片的な思い出じゃないか。キャラが違いすぎるだろう、何だかオイラの方が恥ずかしくなってくる。 主君にもそんな時代があったのだなと、オイ…

付喪神㊳

廊下の向こうから、僕を見つけた彼女は少し小走りに僕に近寄ってきた。僕は彼女のその姿をなんとなくドラマのワンシーンのように見ていた。 僕の目の前の彼女は、僕の唇に突然彼女の唇をよせてきた。一瞬何が起きたかわからなかった僕、その後自分の体温があ…

付喪神㊲

手を伸ばせば届きそうなその手を握ることはできず、僕は彼女を抱きしめた。これほど人の存在を感じたことがあっただろうか。 僕は彼女の唇にキスをした。 海の香とともに彼女の香りがした。その香が僕の中の何かを変えたような気がした。 これが恋なのかもし…

付喪神㊱

シーズン前の海は靄がかかっていた。朝日を見に行ったのに太陽は隠れてしまっていた。まだ肌寒い砂浜は波の音が強く響いていた。 少し前の時間、車の窓を開け、海の香がすると言った彼女の顔がずっと頭に残っていた。 僕は波が寄せては返す音に何度もそのシ…

付喪神㉟

なんてのはどうだろう。 もちろん彼女は僕とはまったく違った人生を歩んで来たのは当然のことだ。誰だって誰かと同じ人生なんて歩めないのだから…。 ただ、それほどの恋なら彼女との出会いはよく覚えているはずなのに、正直、彼女との出会いはよく覚えていな…

付喪神㉞

僕が万年筆を使い始めたのは、大学に入ってからだった。おそらく日記のようなものを書き始めたのがきっかけだ。この頃から誰に話すというわけでもなく、自分の思いをノートに書き始めた気がする。 ここからが、今日までの人生に大きく影響しているのかもしれ…

付喪神㉝

人は自ら動き始めることによってのみ、何かと出会う。待っているだけでは、何にも出会えないのだ、何も起こらないのだ。 変わらないことと動かないことは違う。 僕は誰かを好きになっても、相手に好きと言えない人間だった。きっと運命の相手なら、向こうか…

付喪神㉜

そうして僕は作家になった。これでこの物語は終わりだ。 なんてことがあるわけがない。そんな話があったなら、それは本当にうらやましい、棚からぼたもちの話だ。何のドラマもなく、思ったように進む人生、そんなことがあるわけない。 僕は大学まで通わせて…

付喪神㉛

お〜い、主君…それだ、それだよ! 気づかないのか、本当に気づかないのか、いや、もはや、わざとか、自分のあやまちを認めたくないから、事実を変えようとしているのか、オイラを変えようとしているのか。 主君、お〜い主君、矛盾に気づいているか。おい、お…

付喪神㉚

何だかインクの出が悪い、インクが終わってしまったのか…僕はインクの残量を確認する。 まだあるじゃないか。どうして急にインクの出が悪くなったのだろうか。もしかしたら、何か変なことを言って、いや、書いてしまったのだろうか。彼女が気に入らない何か…

付喪神㉙

おい、おい、ちょっと待て主君。あんたが今ここでそうしているのが偏見ではないのか。オイラを女性と思い込んでいることは偏見ではないのか。偏見だろ。それ以外の何ものでもない。オイラが女性ならいいが、オイラがそうじゃないと言っているのだ。 オイラか…

付喪神㉘

こうして君とともに文字を書いていて気づいたことがある。 それは、常識やそうだと思っていたことには、常に偏見がつきまとっていたということだ。 例えば、絵本は子どもの読み物、それなら大人向けのものは?どんな人に向けてのものでなければいけないのか…

付喪神㉗

だから、僕は書きたいと思ったことを書きたいと思う。それが僕の心だから。それを説明したり、わかってもらう為の努力はもちろん必要だろう。だけど、僕はその心を1番大切にしたいと思う。 心がないものは流れてしまうような気がするから、忘れてしまうよう…