言葉

日常のひと休みに

2021-03-01から1ヶ月間の記事一覧

付喪神㊹

時間は一方向にしか流れていないのに、何故か人の中には別の時間も存在しているような気がしてならない。 自分の中にあるものは自分の年齢とは関係なくその日のままそこにあり、自分をその日にかえす。 時間は流れているのに自分の中の時は逆行できるのかも…

付喪神㊸

主君は書くということで己の中の自分に会っているのかもしれない。そこは感情や理性が渦巻いているめちゃくちゃな世界で、それを知りわかったからといって、どうにもならない世界で、それはどうにもならない自然の猛威とおなじで、つまり自分の中の自然と向…

付喪神㊷

おもえば、主君はずっとそうだった。 今の世の中は、外の世界の繫がりを求め、その繋がりによってお金を手に入れる時代だ。 ただ外へ外へとひろがって行き、それが金銭に繋がる時代に、主君はお金にならない内へ内へと深く潜り、琴線に繋がる、触れるために…

付喪神㊶

人を好きになることは、素敵なことかもしれない。だけど、そのおもいだけで自分を満たしてしまうと、そこに誰もいなくなってしまうのだ。もちろん、誰かを好きなのだから対象の誰かはいるのだろう、だけど、その誰かは本当の誰かではない。その誰かは、自分…

付喪神㊵

彼女はセンスのある人だった。センスというのを言葉にするのは難しい。彼女の描くもの、言葉…、彼女から生まれてくる様々なものが、そう感じさせた。 彼女はセンスのない僕と、どうして一緒にいてくれたのかはわからない。 僕はきっと彼女からたくさんのもの…

付喪神㊴

おい、主君、主君よ、オイラの話を書くんじゃなかったのか!?あんたの恋の話なんて誰も興味がないぞ。しかもすべて断片的な思い出じゃないか。キャラが違いすぎるだろう、何だかオイラの方が恥ずかしくなってくる。 主君にもそんな時代があったのだなと、オイ…

付喪神㊳

廊下の向こうから、僕を見つけた彼女は少し小走りに僕に近寄ってきた。僕は彼女のその姿をなんとなくドラマのワンシーンのように見ていた。 僕の目の前の彼女は、僕の唇に突然彼女の唇をよせてきた。一瞬何が起きたかわからなかった僕、その後自分の体温があ…

付喪神㊲

手を伸ばせば届きそうなその手を握ることはできず、僕は彼女を抱きしめた。これほど人の存在を感じたことがあっただろうか。 僕は彼女の唇にキスをした。 海の香とともに彼女の香りがした。その香が僕の中の何かを変えたような気がした。 これが恋なのかもし…

付喪神㊱

シーズン前の海は靄がかかっていた。朝日を見に行ったのに太陽は隠れてしまっていた。まだ肌寒い砂浜は波の音が強く響いていた。 少し前の時間、車の窓を開け、海の香がすると言った彼女の顔がずっと頭に残っていた。 僕は波が寄せては返す音に何度もそのシ…

付喪神㉟

なんてのはどうだろう。 もちろん彼女は僕とはまったく違った人生を歩んで来たのは当然のことだ。誰だって誰かと同じ人生なんて歩めないのだから…。 ただ、それほどの恋なら彼女との出会いはよく覚えているはずなのに、正直、彼女との出会いはよく覚えていな…

付喪神㉞

僕が万年筆を使い始めたのは、大学に入ってからだった。おそらく日記のようなものを書き始めたのがきっかけだ。この頃から誰に話すというわけでもなく、自分の思いをノートに書き始めた気がする。 ここからが、今日までの人生に大きく影響しているのかもしれ…

付喪神㉝

人は自ら動き始めることによってのみ、何かと出会う。待っているだけでは、何にも出会えないのだ、何も起こらないのだ。 変わらないことと動かないことは違う。 僕は誰かを好きになっても、相手に好きと言えない人間だった。きっと運命の相手なら、向こうか…

付喪神㉜

そうして僕は作家になった。これでこの物語は終わりだ。 なんてことがあるわけがない。そんな話があったなら、それは本当にうらやましい、棚からぼたもちの話だ。何のドラマもなく、思ったように進む人生、そんなことがあるわけない。 僕は大学まで通わせて…

付喪神㉛

お〜い、主君…それだ、それだよ! 気づかないのか、本当に気づかないのか、いや、もはや、わざとか、自分のあやまちを認めたくないから、事実を変えようとしているのか、オイラを変えようとしているのか。 主君、お〜い主君、矛盾に気づいているか。おい、お…

付喪神㉚

何だかインクの出が悪い、インクが終わってしまったのか…僕はインクの残量を確認する。 まだあるじゃないか。どうして急にインクの出が悪くなったのだろうか。もしかしたら、何か変なことを言って、いや、書いてしまったのだろうか。彼女が気に入らない何か…

付喪神㉙

おい、おい、ちょっと待て主君。あんたが今ここでそうしているのが偏見ではないのか。オイラを女性と思い込んでいることは偏見ではないのか。偏見だろ。それ以外の何ものでもない。オイラが女性ならいいが、オイラがそうじゃないと言っているのだ。 オイラか…

付喪神㉘

こうして君とともに文字を書いていて気づいたことがある。 それは、常識やそうだと思っていたことには、常に偏見がつきまとっていたということだ。 例えば、絵本は子どもの読み物、それなら大人向けのものは?どんな人に向けてのものでなければいけないのか…

付喪神㉗

だから、僕は書きたいと思ったことを書きたいと思う。それが僕の心だから。それを説明したり、わかってもらう為の努力はもちろん必要だろう。だけど、僕はその心を1番大切にしたいと思う。 心がないものは流れてしまうような気がするから、忘れてしまうよう…

付喪神㉖

物語でよくリアリティ、リアリティという人がいる。でも人気のある漫画の設定はありえない日常の方が多かったりする。本当に日常、多くの人が経験していることを書いたなら、それは物語になるだろうか。平穏や不安のない安定を求めている人の日常、それが日…

付喪神㉕

これまで私が書いてきたことといえば、怒りだった。何かに対する不満、世の中に対する不満だ、怒りだ。様々なことを憎んでいたのか、悲しんでいたのか、わからないけど、とにかく怒りという感情が私の多くをしめていたのは間違いないだろう。 ある意味エネル…

付喪神㉔

主君の心が指先を通じて伝わってくる。これは理屈ではない。そう感じてしまうのだ。そういうことに理由なんていらない。 主君のちからの入り方が変わるからとか、書くスピードが変わるからとか、主君の手の温度が変わるからとか、そういうことは後からつけた…

付喪神㉓

物語には様々な要素が必要だ。まずは登場人物、敵、味方、こえるべき壁、そして目的、主人公が何をしたいのかわからなかったら、物語がどう進むのかわからない… なんてことはどうでもいい。大事なことはそんなことではない。それらは、誰かと話をするために…

付喪神㉒

主君は時々わけのわからない難しいことを言う。ただ、オイラの存在が主君の想像による産物なのか、実在するものなのかはわからない。それはオイラにとっても主君にとっても大事なことではない。ただ、オイラが今ここにいるというのが大切なことなのだ。 主君…

付喪神㉑

人は自然の中にいるのだ。人は何でも作り出せるように思っているかもしれないが、形あるものすべては自然からの恩恵を受けている。人が無から生み出せるものなんてないのだ。 科学にしても哲学にしても、本来は自然を知り寄り添うことであるはずなのに、いつ…

付喪神⑳

本物の君は経年とともに変化して行くが、磨けば再び輝きを取り戻す。そして、以前とは別の輝きを放つようになる。 人も同じで、年を重ねるごとに別の輝きを放つ。それでも根本の美しさは変わらない。そんな当たり前のことを今の日常は忘れさせる。科学や哲学…

付喪神①⑨

大量に生産し大量に消費する。そんな時代がある。誰もが同じものを、誰もが新しいものを求める時代。有限のものを使っているのに、循環しない消費。経済、金銭をまわすために使い捨てを促して行く。 それはいつしかモノだけではなく人にまでおよびはじめる。…

付喪神①⑧

君を見ていると心が安らぐ、きっと君をつくった人はそんな人なんだろうと思う。 創作、何かをつくる、表現する、すると、そこに人があらわれる。 人は外見を見るが、表現は表現者のより内面を見せてくれる。 つまり、外ではなくてよりその人の内面、心のあり…

付喪神①⑦

まずは君の物語だ。君は異国の工房で生まれた。それは職人の手作りによる芸術だ。刻まれた文様は2つと同じモノは存在しない。人と同じだ。 僕は想像する、君が生まれるまでを。君のずっとずっと前の君がの祖先のはじめの1本ができるまでのことを。 それは昔…

付喪神①⑥

君と出会ってからは様々なものが頭に浮かぶようになった。断片的に書いてはいるけど、まだちゃんとした形にはならない。それでも、ずっと白紙の紙と向き合っていた時間が嘘のように今は白い紙に向き合っている。 そこに刻まれて行く文字は、まさに君と僕の思…

付喪神①⑤

主君は速記なので、よくインクフローというのを気にしているようだ。ペン先の動きにインクの出が追いつかないと文字は書けない。主君はそれを1番気にしているようだった。 ペン先の硬さやしなりというのもあるようだが、主君はそれはある程度コントロールで…