言葉

日常のひと休みに

付喪神㊱

 シーズン前の海は靄がかかっていた。朝日を見に行ったのに太陽は隠れてしまっていた。まだ肌寒い砂浜は波の音が強く響いていた。

 少し前の時間、車の窓を開け、海の香がすると言った彼女の顔がずっと頭に残っていた。

 僕は波が寄せては返す音に何度もそのシーンを再生されているように感じていた。どうしようもなく、どこか遠くに感じたその横顔に僕はひかれていたのだ。

 どこか遠くを見るその目を僕は好きになっていたのかもしれない。