言葉

日常のひと休みに

付喪神㊶

 人を好きになることは、素敵なことかもしれない。だけど、そのおもいだけで自分を満たしてしまうと、そこに誰もいなくなってしまうのだ。もちろん、誰かを好きなのだから対象の誰かはいるのだろう、だけど、その誰かは本当の誰かではない。その誰かは、自分のおもいだ、それは自分自身なのだ、変わらない、いや変えない偏見というものから生まれた自分自身なのだ。

 本当はそうなりたくないし、そうしたくない。相手を好きな事実はかわらない。でも自分の中にいるのは誰かではない、いつの間にか大切な誰かを自分自身の都合によってつくられたその誰かによって追い出してしまっているのだ。すり替わってしまっているのだ。

 その時の僕はまだそんなことを知るすべを持っていなかった。なぜなら彼女が好きだったからだ。

 僕がしなければいけなかったのは、会話ではなく対話だったのだ。