言葉

日常のひと休みに

アキの木

アキの木…

別名、別れの木とも言われる木がありました。

というのも、

旅行に来ていた

恋人同士がその木に触れたら

お互いのお互いを思う気持ちが、

旅行を終え、帰る頃には、

すっかり冷めてしまい、

その後会うことはなかった…という話が、

いつの間にかひろまり、

今ではそれが転じて、

ヤメたくてもヤメられないこともヤメられる、

何かと決別できると

言われるようになりました。

実際、恋人同士の関係だけでなく、

ギャンブルや万引など、

ヤメたくてもヤメられなかったものが

ヤメられたという噂も耳にしました。

 

それほど凄い木ならと

そこを訪れると、

もう随分と年齢を重ねているはずの巨木が

まるで、若々しさを取り戻したように

そこに立っていました。

やめたいもののなかった私は

その木に触れませんでしたが、

私の友人は何やら願いごとを唱えながら

その木に触れていました。

 

しばらくして、

噂の真実を確かめるために

私は友人を訪ねました。

私がそのことを友人に問いかけると

友人はそのことすら忘れていたように

「ああ、そんなこともあったかな…」

と言って、家の中に入ってしまいました。

 

その後、

私はその友人の姿を見ていません…

亡くなったという話も聞きません。

友人は何を願ったのでしょうか…

今となってはわかりませんが、

最後に会った時の友人は

とても幸せそうには見えませんでした。

それどころか、

以前の面影もなく、

別の人のように思えました。

私は友人が、

何か大切なものを

願いとともに抜き取られてしまったような気がしてなりません。

あの日以来、

私はあの木に近づくことはありません。