言葉

日常のひと休みに

青天の霹靂

 その日は久しぶりの外出だった。

 店内はそれほど多くの人がいるというわけではなかったので、欲しいもの以外も見ようとゆっくりとまわった。

 そんなふうにして、私が下の方にある商品をしゃがんで見ていると、男の子が近寄って来て、私と同じようにしゃがんでその商品を見ていた。

 その時だった。こんな場所ではありえないような音が私の耳に入ってきた。私は気のせいだと思い、聞かなかったことにしてその場を去り、また別の場所で商品を見ていた。

 すると、さっきの男の子が再び私に近寄って来て、今度はさっきと逆側の私の右側にしゃがみこんだのである。私はチラッとその子の方を見た。その子はしゃがんだ姿勢で何やら力を入れているように見えた。必死に歯を食いしばりいきんでいる。その姿にさっきあれは、私の気のせいではないと、はっきり認識した。

 そして、次の瞬間、私はさっき聞いた音とまったく同じ音とともに強烈な匂いを感じた。

その時、私が頭に思いえがいたことは2つだった。

 1つ、この子にゲンコツという一撃をくらわせてやろうか。

 1つ、一言、「くっさ!臭い!」と大きな声で言ってやろうか。

 しかし、私のとった行動は、それら2つの選択肢とはまったく違う行動であった。

 それは『無』そう、無視だった。そもそもこの子の存在すら否定する行為、この子をここにいないものとして扱ったのであった。何もない、私にとってお前はとるに足らない存在どころか、この世界に、私の世界に存在すらしていないと、私はこいつにしめしてやったのである。

 もし1つ目の選択をしていたなら、こいつの親が、モンスターなんとかになって、私に言いがかりをつけてきたかもしれない。

 もし2つ目の選択をしていたなら、こいつはしめしめと、自分の思惑通りにことが運んだことを喜んでいたかもしれない。そして、私は周りの人の好奇の目にさらされていたかもしれない。

 私は、私に及ぶ害を最小限の行動によって回避したのである。

 私は自分のこの行為に称賛を与えながら店をあとにした。

 

 私が店の駐車場の私の車に乗ろうとした時、私は私の車のフロントガラスに不快なものを見つけた。それは私のこの称賛に値する行為をあざ笑うかのようにそこにあった。

 鳥のフン

 きっとこの鳥は大きく羽ばたいたのであろう。私を踏み台にして。

 クソっと思ったが、私はそれを口には出さなかった。なぜなら、それを言ってしまえば、私はこいつらと同じになってしまうような気がしたからだ。

 

 これが、久しぶりによく晴れた日に出くわした、ある1日の私の出来事である。

 私はこの事を今日買った真新しい万年筆で日記に記すことにした。