言葉

日常のひと休みに

 僕らは出会う

 でも、出会った時にキミの声は聞こえなかった。そして、僕の声もキミに届かなかった。

 キミはただうつむいて、僕はただ空を見ていた。

 花が種を大地に落とし、また花を咲かせた。

 それは何度目の花だったのだろう。

 キミはただ泣いていて、僕はただそこに立っていた。

 どうしてだろう。

 僕はその時キミが好きだと気づいたんだ。

 だから、僕はキミをそっと抱きしめた。

 キミはもっと大きな声で泣き出した。

 そんなキミに僕は好きって言ったんだ。

 そんな時に僕はキミに好きって言ったんだ。

 その時、初めて僕はキミの声を聴いた…

 僕らはずっと互いのそれを待っていたみたいだった。

 僕の声がキミに届き、キミの声が僕に届いた。

 

 あの時、キミは初めて自分の声を聞き、自分が話せることを知った。そして、キミの声が聞こえた僕に驚いていた。僕にとってそれは当たり前だったのに…

 キミの日常は自分の音の無い世界だったんだね。

 キミが『ありがとう』と言ってくれ、僕は『ありがとう』と言葉をかえした。

 キミは、いつも僕の隣にいてくれた。

 手をつないだとき、僕はキミのぬくもりを感じて、キミは僕の優しさを感じると言ってくれた。

 

 でも、僕らが知ったのはそれだけではなかった。眠れない夜、ジワッと染み込んでくるような胸の痛み、うまく呼吸できず、意識的に呼吸したりもした。訳もわからず、ひとり部屋にいられなくなり、訳もわからず、何かを探すようになった。

 胸の中で走り出した何が、ため息となって外へはき出される。

 すててしまいたい。

 誰もが、こんな風に生きているなんて、生きることが、こんなにも切ないなんて。

 

 突然、目の前にずっと続く道が見えて、驚き立ち止まる。そして、振り返る。

 キミが僕の方へ歩いて来るのが見える。僕はただそこで、キミが歩いて来るのを待っていた。

 キミが僕の隣に立った時、あのずっと続く道の途中に、小さな子が立っていて、こっちを見て笑っている。

 キミが僕の手をふいにとり、その子の方へ歩き出す。

 「・・・好きって、なぁに?」

 僕らはその声を発した小さな子を優しく抱きしめた。ただ、ただ、優しく壊れないように・・・・・。